日本支部通信 第14号(2000.12)

特 集


国際高麗学会日本支部 第5回学術大会
日時 2000年11月19日(日)午前9時30分~午後5時
場所 大阪教育大学天王寺キャンパス

 国際高麗学会日本支部第5回学術大会が11月19日(日)に大阪教育大学天王寺キャンパスで開催されました。
午前の部は自由論題報告で、村上純氏(大阪大学大学院言語文化研究科)、新田牧雄氏(蕨戸田市医師会看護専門学校)、張起權氏(大阪教育大学・関西大学非常勤講師)の3人がそれぞれのテーマで発表を行いました。
午後の部では全体報告「在日コリアンの現状と未来」が行われ、文京洙氏(立命館大学)の司会のもと、朴一氏(大阪市立大学)が第1報告、韓東成氏(朝鮮大学校)が第2報告を発表したのち、活発な質疑応答が繰り広げられました。なお、コメンテーターに予定されていた姜尚中氏は、残念ながら体調不全のため参加できませんでした。
学術大会終了後は、天王寺東映ホテルにおいて懇親会がもたれました。

 

全体報告 「在日コリアンの現状と未来」

 

在日コリアンの新しい世代の生き方をめぐる一考察
─Ⅰ市における意識調査から見た在日3世・4世の生き方─
朴 一

 

Ⅰ.同化という言説

Ⅱ.先行研究の問題点
● これまでの在日コリアンに関する実証的研究

Ⅲ.アンケート調査の実施
● Ⅰ市『外国人市民アンケート調査』の概要
● 在日コリアンの年齢層と出生地

Ⅳ.婚姻傾向、国籍、名前、言語から見た新旧世代の比較
● 在日コリアンの世代別婚姻傾向
● 在日コリアンの国籍に関するイメージ
● 在日コリアンと2つの名前
● 在日コリアンが日本名を名乗る理由
● 在日コリアンの母国語に対する理解度

Ⅴ.在日コリアンの新しい世代の生き方をどのように理解すべきか
● 在日の新しい世代の生き方をめぐる最近の研究成果
● 在日コリアンの若い世代の生き方

Ⅵ.考察から得られた結論
在日コリアンの新しい世代は、むしろ「同化」と「異化」、あるいは「在日」と「祖国」の狭間で、揺れ動く可変的な存在として理解することが必要である。そうした日本文化にも朝鮮文化にも属さない、国境を超えた「ディアスポラ」ともいうべき彼らの可変性のなかにこそ、私たちは、日本人でも、伝統的なコリアンでもない、独自のエスニック・グループとしての在日コリアンの新しい生き方の範形を読み取ることができるのではないか。

(大阪市立大学)


在日朝鮮人の現在と未来
韓 東 成

 

1.在日朝鮮人の現在への視点
△問題の歴史的経緯
-20世紀の民族史と在日同胞
・植民地時代─在日朝鮮人問題の発生
・分断時代─在日朝鮮人問題の長期化
-『変化したもの』─在日朝鮮人の生活と意識
・世代交替
・定住意識化
-『変化しなかったもの』─問題の発生と長期化にかかわる諸要因
・過去の清算問題
・祖国の分断状況
*変化した現実は未解決のままに残された根本問題の産物

△現在への視点
①『変化』のみを根拠に、根本問題から目をそらすのは、強いられた現実を追認する考え
②祖国の統一と過去の清算によって、問題がすべて解決されるとするのも、非現実的な考え
③重要なのは、在日朝鮮人問題の発生および長期化にかかわる問題の解決を展望しながら、変化した現実に積極的に対応すること
*根本問題と現実問題への統一的アプローチ、継承と革新の統一

2.在日朝鮮人の未来についての試論
△在日朝鮮人をとりまく環境の変化
-在日朝鮮人の生活と意識
・世代と意識の変化
・構成の複雑化
-祖国の情勢
・民族自主と統一への動き
・朝日国交正常化と過去の清算の日程化
-世界と日本の状況
・世界の『一体化』と世界の『自主化』
・日本における『国際化』と『保守化』の対立

△いくつかの展望
①祖国の統一と過去の清算によってもたらされる、在日朝鮮人の位相のダイナミックな変化
②在日朝鮮人の民族的アイデンティティーと自主権の保証、統一祖国と日本、国際社会における幅広い活動舞台の展開
③日本における国際化・市民社会化の未成熟、在日朝鮮人問題を日本社会との関係でのみ解決する展望の希薄
△在日朝鮮人の未来を切りひらくために
-理論の再構築
・民族理論の再検討
・『在日朝鮮人』とは?
・未来像の提示
-組織と運動の転換
・民族史の転換への主体的関与
・民族性、生活と権利の擁護
・新しいネットワークの形成

(朝鮮大学校)

 

【自由論題報告要旨】


韓国における日本大衆文化開放
─トランスカルチュラリズムの観点から─
村上 純 

 

1.研究の視点と目的
◇日本大衆文化
→(JPC^:Japanese^Popular^Culture)
1)JPC開放の問題を、異文化受容、文化摩擦、文化政策、文化交流、トランスカルチュラリズム/トランスナショナリズム研究における重要なテキストと位置づける。
2)JPC開放の流れと現状を把握し、整理する。
3)JPC開放問題を研究する際の、枠組みや方向性を考察・提示する。
4)JPC開放に関連する文化現象および諸問題についての多角的分析を行う。
2. 韓国におけるJPC開放の流れと現状
2.1 金大中政権におけるJPC段階的開放宣言
◇韓国大統領の訪日会談「21世紀パートナーシップ共同宣言」(1998.10.7)
◇韓国政府によるJPC段階的開放発表(1998.
10.20)
「韓日文化交流共同協議会」設立
映像媒体:映画→ビデオ→放送
歌謡:公演活動→音盤活動

2.2 一次開放(1998.10.20~)
(1)映画
四大国際映画祭入賞作品および日韓合作映画
⇒“HA-NA-BI”“うなぎ”“影武者”“七人の侍”“羅生門”“家族シネマ”“愛の黙示録”
(2)歌謡
日本人歌手による韓国語歌詞音盤
⇒神野美伽、Y2Kなど
2.3 二次開放(1999.9.10~)
(1)映画
公認国際映画祭入賞作品および年齢制限のない‘全体観覧可’映画
⇒“ラブレター”“楢山節考”“リング”“四月物語”“鉄道員”など
※芸術性から娯楽性・話題性重視の傾向へ
(2)歌謡
二千席以下規模の室内公演における日本語歌謡
⇒ 金蓮子、澤知恵、ラウドネスなど
(3)アニメーション
日韓合作アニメーション映画⇒ “ガンドレス(Gundress)”
他にも,“新世紀エヴァンゲリオン”“もののけ姫”など 
(4)雑誌
長期刊行物に対する外国人投資規制(25%未満)を全面廃止

2.4 三次開放(2000.6.27~)
(1)映画
‘18歳未満観覧不可’を除いたすべての映画
⇒“踊る大捜査線”
(2)歌謡
座席制限・室内制限無しの公演が完全全面開放
⇒“チャゲ&飛鳥”
演奏音盤、韓国語歌唱音盤、日本語以外の外国語による音盤
(3)ゲーム
家庭用ビデオゲームを除くすべてのゲーム
(4)ビデオ
開放対象の日本映画およびアニメーションのうち、国内ですでに上映されたもの
(5)放送
スポーツ、ドキュメンタリー、報道番組
ケーブルテレビ、衛星放送では国際映画祭入賞および全体観覧可映画のうち、すでに国内で上映されたものは放映OK

2.5 今後の動き
◇ワールドカップ・サッカー大会日韓共同開催にともない、2002年までには全面開放される見通し(韓国文化観光部)
◇日韓間における双方向での文化交流の活発化

3.トランスカルチュラリズムの観点からみたJPC開放
3.1 JPCの「越境」と「脱テリトリー化」
◇トランスカルチュラリズム(transculturalism)^/トランスナショナリズム(transnationalism)
=「ヒト・モノ・カネ・情報」などの文化圏/国家を超えた移動=「越境」
◇日本を発信地とするものが「越境」し,日本という「テリトリー」を離脱する=「脱テリトリー化(deterritorialization)」

3.2 「母文化/ホスト文化」
◇「母文化」としてのJPC/「ホスト文化」としての韓国文化
◇二者の力学的関係によって文化帝国主義(cultural imperialism)的議論、あるいは多文化共存的議論へ

3.3 「グローバリゼーション/ローカリゼーション/グローカリゼーション」
グローバリゼーション(globalization)
+ローカリゼーション(localization)
=グローカリゼーション(glocalization)
◇JPCのグローバリゼーション⇒「大衆文化」「現代化」のグローバリゼーション
◇USA(US of Asia)と呼ばれる日本およびJPC
◇アジアにおける「グローバルスタンダード(global^standard)」

3.4 「情報化」
◇JPCの発信者・日本と、受信者・韓国における高度な「情報化」
◇「情報化」による「情報化」の助長・増幅化⇒より専門的でマニアックなJPC受容者の増加
◇JPC紹介雑誌およびホームページなどによるJPCの普及
⇒『C-JAPAN』『日本・日本文化』『J・BOOK』など

(大阪大学大学院博士課程 ソウル大学校客員研究員)

 

東アジア民族国家形成期にみる朝鮮両班体制の考察
─高校世界史授業展開試行案─
新田 牧雄

 

Ⅰ.①高校世界史(B)授業展開試行案として構成したが、併せて中学校総合学習国際理解教育・高校総合学習にも援用活用を目途
②既習の地歴・社会領域の分野事項を参考資料・史料とす

Ⅱ.民族国家形成と発展(期)
①-1渤海─統一新羅─高麗(王朝)-李氏朝鮮
-2古朝鮮─高句麗・百済・新羅(三国時代)
②-1日本 平安中期─鎌倉・室町─江戸中期
-2中国 宋─南宋─元─明

Ⅲ.両班 国家(基盤)体制として
高麗朝以来最高の身分として官職を独占
特権・特典保有
経済的には農荘所有の地主層
高麗朝は両班貴族制 李朝は両班官僚制として把握
両班─授業展開用
(1)李氏朝鮮時代の官僚階級
(2)高麗時代から官僚は文班(東班)と武班(西班)とに分けられ
(3)平民・賎民の上にたち、種々の特権を享受
(4)経済的には地主であるが、高級官職を独占
(5)兵役・賦役(農奴の支払う労働地代・封建地代・経済外強制)を免除される
(6)社会生活上平民以下のものとは非常な差別があった
(7)上~大土地所有者で官僚
中~官僚
下~官僚ではない中小土地所有者

Ⅳ.世界史的視点
①1170年高麗武臣政権出現 日本では1192年に武士政権(鎌倉幕府)確立
②全盛期の蒙古騎馬軍侵略に徹底抗戦 1231年から57年まで8次
(参)日本 1274、81年(2次)
ベトナム陳朝1257、84、87年(3次)
③幕府三別抄の対蒙同盟の意図つかめず、その反面1274年までの6年間に対蒙古軍迎撃準備完了
④科挙制 独自に発展
(参)陳朝採用 日本 律令制下に一時

Ⅴ.ヒエラルキー(Hierarchic) 階層性の図示化
①両班─良人─奴隷とおさえた場合…骨品、族譜、白丁、中人の位置づけ
②-1教会ヒエラルキー(11~13c)
教皇権の絶頂 教会ヒエラルキーの完成
教皇庁(大司教区・司教区─小教区)-信者
-2旧制度(アンシャン=レジーム)(ancien regime)
国王─第1身分(僧侶)第2身分(貴族)2%-第3身分98%※
※市民14% 農民84%
Ⅵ.生徒用(含受験)用語集に課田法・占田法はあっても科田法がみあたらないもの多々あり

Ⅶ.ⅤとⅣを起因に生徒作業・反応

〔補完資料〕
Ⅰ.(1)両班 リョウハン ヤンバン
朝鮮で文班と武班とをいう。
其の先祖が文勲または武勲をたてた家柄
(2)東班 朝廷で東側に列ぶ者
☆按レ旗分二左右翼一、東班西上
西班東上(清会典事例)
(3)☆西班 学士特制(宣和三年)
☆中国史(史料)(文献)

Ⅱ.(1)両班 東班と西班 上流または門閥高き人の称
(2)東班 文官 文官の班別
(朝賀の時文官は東方に、武官は西方に列するよりこの称)
(3)西班 武官 武官の班別─朝賀の序列(席次)
→朝鮮語辞典(朝鮮総督府)(復刻版)

Ⅲ.ヒエラルキー(Hierarchic)
図示 日本の封建制
士農工商=士→商・工→農
上→ 中 →下

Ⅳ.(1)李朝の官人は惨烈な党争のくり返し
☆土林 立派な人々、読書人のなかま、館の名(梁の武帝)
儒人 儒者(史記)

Ⅴ.奴婢
(1)公奴婢(官奴婢)①京居奴婢
②外居奴婢(奉足・選上・身貢)
(2)私奴婢 ①家内奴婢(率居奴婢)
②外居奴婢

(蕨戸田市医師会看護専門学校)

 

伝統仮面劇「タルチュム」の登場人物研究
─風刺の主役「マルトゥギ」を中心に─
張 起 權

 

はじめに

 朝鮮半島の代表的な伝統喜劇タルチュムは、近世における庶民たちの日常生活と関心事を諧謔的に描いている風俗劇である。その中には日常の秩序に対する反乱や逆転のような内容が多く盛り込まれている。とりわけ、権威的存在である支配層の両班に対する痛烈な風刺は、タルチュムの醍醐味といえる。本研究は、両班に対する風刺の主役であり、タルチュム全体の主人公ともいえる下人役のマルトゥギにスポットを当てる。
1.タルチュムの種類
独立以降の発掘と採録の努力にもかかわらず、現在まで明確な形として伝承されているものは十数作品にすぎない。タルチュムには流派といったものはなく、地域によって多少異なる形態のものが分布しており、地方の演戯集団によって伝承されてきた。従って、タルチュムの分類は必然的に地域性と深く関わりがある。タルチュムを地域性を中心に分類し、その特徴について考察する。
2.タルチュムにおける下人役の特徴
2.1呼称の象徴性 
(1)職種や身分、身体的特徴を表現
(2)固有名詞と普通名詞を区別せず使用
⇒喜劇の一般的特性
◎地名:‘チェッコル(灰の村)’‘モンジッコル(塵の村)’
◎人名(狂言):太郎冠者、次郎冠者、大名、主、婿、山伏
2.2各タルチュムに登場する下人役の呼称と特徴
(1)マルトゥギ:「鳳山」「殷栗」「康」「楊州」「松坂」「固城」「統営」「駕山」「東莱」
(2)マットゥギ:「水営」
(3)セットゥギ:「楊州」「松坂」
(4)チョレンイ:「河回」
※超人的存在
◎ヨンノ:「統営」「駕山」「東莱」「水営」
◎ビビ:「固城」
2.3マルトゥギの仮面
(1)優れた象徴性:滑稽・風刺的人物像のカリカチュア
(2)繊細な描写の欠如:悩みや悲しみの表現には不適切
2.4喜劇における下人・道化役
(1)commedia dell’arte:ずる賢い召使
(2)狂言:太郎冠者、次郎冠者
(3)プラウトゥス喜劇:奴隷
3.マルトゥギによる両班風刺
3.1下人役としてのマルトゥギの類型
(1)順応型:「北青」「河回」
◎成立時期・変遷過程において初期段階
◎両班が権威を保ちながら、流れを主導
◎両班とマルトゥギの緩やかな葛藤関係
(2)対立型:「鳳山」「康」「楊州」「松坂」
◎成立時期・変遷過程において中間段階
◎背景:封建体制・身分秩序の動揺
◎両班風刺マダンの台詞:「楊州」(16%)「松坂」(8%)
(3)攻撃型:「殷栗」「固城」「統営」「駕山」「東莱」「水営」
◎成立時期・変遷過程において後期段階
◎背景:両班の量的な増加・権威墜落、庶民の相対的な身分上昇
◎両班風刺マダンの台詞:「統営」(35%)「東莱」(47%)「水営」(74%) 
◎両班を最も痛烈に風刺するのは、嶺南地方の「五広大系統」である。そこでは支配層である両班と被支配層である下人の立場が完全に逆転している。
(4)時代背景:16世紀後半~17世紀中半における社会相
◎4回に及ぶ外国からの大侵略により、社会的混乱が増大
◎朱子学の排斥と実学の台頭 
◎産業発達と地主制の変化
◎身分制度の混沌と民衆意識の成長
3.2風刺の手法
(1)言語遊戯
◎同音異義語や類似語による言葉遊びの多用
⇒中部地方の「山台ノリ」は言葉遊びの宝庫
〈例〉センニム(下級両班)がセットゥギ(下人)の悪知恵にだまされ、セットゥギを父(アボジ)と呼んでしまう場面。
・センニム:名前は何と申す。
・セットゥギ:わしの名は、名字がアという字で、名前がボジだ。
・センニム:アー、ボジ?どこかで聞いた名前だなあ!
・セットゥギ:そうだろう。大きい声でいってみろ。
◎露骨な性的表現、隠語、俗語の多用
(2)身体による直接的な攻撃
(3)超人的存在による懲罰
◎ヨンノ:「五広大系統」に登場する霊物(神獣)。顔は青く、身は青地に赤や白の模様のある龍の姿をしている。
◎霊物のヨンノやビビは地上の悪すなわち災難を追い払うことで、疫神を退治する役割を果たす。
◎「五広大系統」ではヨンノやビビが両班を直接食べてしまうほどである。
・両班:ヨンノといえば空にいるものだろう。何しに地上に降りて来たんだい。
・ヨンノ:地上に降りてきたのは他でもなく、両班の行いが悪いから捕まえて食べようと思ってさ。今まで99人の両班を食べたところだが、後一人食べて百になったらまた空に登って行くわけだ。
◎民衆は両班を地上の悪とみなし、超自然的な力を借りて両班を退治している。
3.3風刺の類型
(1)両班の権威の失墜
◎日常世界では厳格に守られている階級的秩序と両班の権威は、タルチュムの世界においてはもはや何の意味もなさなくなる。
〈例〉鞭を持っているマルトゥギの前に両班たちが頭を下げて並んでいる場面。
・マルトゥギ:我々下人よりも劣る奴らが、わしらに向かっていつもこいつ、あいつと呼ぶのはけしからん。こいつら、早くひざまずいて許しを乞わないか!
・両班たち:許して下さい、許して下さい。私たちを哀れに思って命だけはどうか…
(2)両班の出身に対する侮辱
◎両班階級において最も重要視される両班の出身に対する侮辱が多い。
◎「両班は庶子の出身であり、母方は飲み屋の女将か女僧である」〔統営五広大〕
◎「かたっぽは水原の白家、もうかたっぽは南陽の洪家の血が混じった妾の子」
〔固城五広大〕
◎世襲制すなわち偶然の要因によって決定される両班階級に対する民衆の反感。
(3)身体的弱点に対する嘲弄
◎「センニム(下級両班)は二ヵ所、ソバンニム(若い両班)は一ヵ所唇が裂けており、トリョンニム(両班の子供)は口がゆがんでいる」
〔鳳山タルチュム〕
◎両班の身体的欠陥を強調することで、両班を威厳とも体面ともかけ離れたカリカチュアされた滑稽な存在にしてしまう。
(4)非倫理性
◎両班の男性だけでなく、両班夫人の性生活に対する風刺までみられる。
◎〔統営五広大〕では、紅白面、墨面、客面、ゆがみ面などの両班に対してマルトゥギが次のように暴露する。
「三番目の両班、お前のことをいえば、母親が一人に父親が二人だろう。かたっぽは洪家で、もうかたっぽは白家が作ったんだから。」
「四番めの両班、お前のことをいえば、お前の母親の行いが不浄で客舎の下で産み落としたから全身が真っ黒なんだ。」
「五番目の両班、お前のことをいえば、お前もやはり下人の子孫でお前の母の行いが不浄で…」
◎紅白の仮面は,母親が貞操観念の欠如から二人の男と通じて生んだという意味で,顔の半分は赤,半分は白といった奇形を表す。
(5)両班面:無能で弱体な支配層のカリカチュア
4.対立と和解の両面性
4.1争いから和解・生産への解決
(1)性行為、浮気、出産
(2)Grotesque Realismの世界
(3)冬と夏の戦い
(4)演劇的転倒
4.2風刺に潜む‘ハン’と‘シンミョン’の複合性 

(大阪教育大学・関西大学非常勤講師)


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{国際高麗学会日本支部第7回評議員会}
第7回評議員会が2000年11月18日、OICセンターにおいて開催された。まず滝沢秀樹代表より開会の挨拶があり、次に1999年度の活動・会計ならびに2000年度の事業計画・予算案が報告され、そして2000年度の活動中間報告もなされた。とくに会費納入率を高めること、会費未納者への対応策、会員数のさらなる拡大などについて議論が交わされた。また、代表より役員選出について提案がなされ、新代表に文京洙氏が選出され承認された。そして、新代表より事務局長として高龍秀氏が、新たな評議員として裴光雄氏、高賛侑氏、宋連玉氏が委嘱され承認された。


〔国際高麗学会日本支部 第5回総会〕
第5回総会が2000年11月19日、大阪教育大学天王寺キャンパスにて第5回学術大会終了後に開催された。第7回評議員会で提議された内容が報告され、承認された。

編 集 後 記
◇分断の悲劇に明け暮れた20世紀の幕を閉じ、いままさに朝鮮半島は南北の和解と統一に向かう新時代の幕開けを迎えようとしています。6月の南北共同宣言以後、南北を隔てる氷壁は民族的な情熱によって急速に溶解しつつあります。私たちが久しく抱いてきた「見果てぬ夢」が次々と現実になっているのです。
◇朝日新聞社と東亜日報社が共同で行った日・韓・中・米での世論調査の結果(12月5日掲載)は注目すべきものでした。南北首脳会談を「よかった」と思う人は日韓ともに87%、中・米においても8割に達しました。南北朝鮮が将来「統一されるか」という設問では、韓国で73%、日本でも50%、日朝問題では国交を「結ぶ方がよい」という回答が4ヵ国とも6割を上回りました。これは南北関係の進展が周辺諸国からも大きな支持を得ていることを示しているといえるでしょう。
◇こうした中で開催された日本支部第5回学術交流大会では、「在日コリアンの現状と未来」について熱気に満ちた議論が交わされました。在日問題は複雑な問題を抱えながらも、様々な可能性を秘めていることを示唆してくれる貴重な場となりました。朝鮮半島の前途には、まだまだ多くの問題が山積しています。しかし祖国統一を宿望する人々の情熱と英知があれば、解決されない問題はありません。劇的に転換したこの潮流を一層促進するため、未来へのビジョンを提示する研究者の努力に大いに期待したいものです。  (K)